クリスマスの夜に1


 そう、30年も前の六本木の夜。

 ダンスフロアの混みように比べて、壁に添うように円形に配置されたドリンクエリアは空いている。チーズやピザもそこそこに美味しかったし、ワインも赤がよかった。「もう少し濃いめにして」と作ってもらった水割りのグラスを片手に隣のスツールの女の腰に手を回す男。カウンターに座っているのは忘年会帰りでちょっと疲れた中年サラリーマンばかりというわけだ。私もNとTと一緒にカウンターから少し離れたテーブルを選んだ。夜の長さを予感しながら、踊りよりも酒と休息。

 ディスコでの杯目。ジントニックをドライマティーニに替えてテーブルのブースに戻ると、NとTは退屈そうにダンスフロアに視線を流している。

 踊ろうか。

 えっ、踊るの。

 Nはそう言いながら腰を上げるとスカートのウエストに手をやった。後ろにあるファスナーが横にあった。Nはそれを元通りに直す。どこまで到達したのかは 判らないが、Tの手がそこから侵入したのだろう。Nの掌を取ると僅かに潤んでいる。Nは眼だけではなく掌も潤む。汗ではなく、やや上気した皮膚が何かに触れ、熱を冷まそうとする。

 照明が落とされて曲が変わった。ゆったりとした踊りやすいブルース。店も日 遅れのクリスマスイブを楽しむ中年の客にサービスをしている。蝋燭のように頼りなげに揺れる灯り。Nの顔が揺れる。私の鳩尾にNのブラジャーが少し固い。 今夜のNのブラジャーは刺繍の入った外国ものだろう。今日の色は何色だろう。私はNの腰を強く引き寄せる。Nは背中に手を回し、私の肩に額を乗せた。髪は 幽かにタバコの匂いがした。Nのゆったりとした腰の動きに私が反応する。勃起がNの下腹部を圧迫した。

 Nが会員のホテルはディスコから歩いても15分とかからな い。途中に朝までやっているフルーツ専門店やホットドッグ屋がある。六本木という街は夜の生活にも便利だ。リカーショップでは珍しい酒も手に入る。問題はホテルのベッドがツインということだ。そんなことを考えると、勃起は硬度を高めるばかりで鎮まらない。Nの指先が背中から前に滑り込む。待ちきれなかった Nの舌が飛び込んできた。性急なキス。粘り気のある舌先が尖る。腰に回した掌を胸に当てる。ブラジャーを通してNの乳首が高ぶりを訴える。Nの手が同時に勃起を捉え、そっと握る。私は、乳首を強く摘む。

 胸の手がNの熱い中心を目指す。スカートの上から柔らかなふくらみ、十分に濡れた核を隠す恥丘。ファスナーから手を入れるとストッキングの手触りが心地 いい。滑るように尻のカーブを掌が撫でる。ストッキングが食い込む湿った熱さを中指が捉える。核の突起は陰毛の少ないNの亀裂から飛び出しているだろう。 Nは敏感だ。芯は灼けていて、勃起の先端が緊張した。Nの中心は透明な光を放つ、今にも零れそうな粘液を覆われているはずだ。フロアの照明が次第に明るくなり、Nは唇を離した。首に巻いた左手の時計は頂点を過ぎて短針は1に近かった。

 1時を回った、

 どうする。もう終電は間に合わない。

 お友達のところに泊まろうかな。

 Nの焦らすような上目遣い。

 この間のホテルでいいよ、歩いていけるし。

 ああ、ここからは近いけどね。

 いいよ、あそこで。

 でも、ツインしかないわよ、あのホテル。

 いいよ、人で。オレはTと寝るから。

 人で泊まりなさいな。私はいいわ。一緒にフロントに行ってチェックインだけするから。

 Tは空のグラスを前に、待ちくたびれた顔をしていた。私は熱さを抑えるために冷たいジントニックをつ頼んだ。

 これ飲んだら出よう。ホテルが近くにあるから。

 Tは黙ってグラスを空けた。

 

クリスマスの夜に2

 

 六本木の街に暮れの寒い風が吹き抜ける。Nはホテルまでの坂の途中にある花屋に寄る。Nのツイードのコートのラインが綺麗なシルエットだ。フルーツはライチを買ってくるだろう。白く半透明な果肉から零れる果汁。Nは固い果皮を上手に剥いて指先を濡らしながら起用に種を外す。濃密だが品のある甘さと果肉の歯応えはNの核の舌触りにも似ていた。

 中年に差しかかろうとするフロントの男は、Nがカウンターに滑らせたメンバーズカードを引き寄せ、「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」と顔を上げ、Nの後ろの私たちを興味深げに眺めた。そして人を見回し、朝まで繰り広げられる出来事を想像したに違いない。キーボックスから洒落たキーホルダーの付いたキーをに差し出し、「ただ今の時間、必要なことがありましたらフロントまでお電話下さい」と頭を下げた。「スキンはありますか」そう聞いてみようかと思ったが、「氷を持ってきて下さい。キューブじゃなくて、アイスロックを。それと、冷えた瓶ビールがあったら20分後に」。

 エレベータはさっきフロントにいた先客のオーデコロンに香りが仄かに残っている。片開きの扉が開くと緋色のカーペットが続く。前回は鮮やかなアクアブルーだった。フロアによってカーペットの色が違うようだ。前に来たのは秋も終わる頃、10月の半ばだったか。広尾で飲んで久しぶりにこのホテルに泊まった。その夜、Nは肛門への挿入を頑なに拒んだ。「今日は止めて」と、私の勃起を口に含んだ。

 ツインルームはヨーロピアン調の壁紙とベッドカバー。白熱灯の柔らかい間接照明が部屋を充たしていた。Tにシャワーを勧め、窓際のテーブルにピザやワインを並べる。Nは買ってきたライチを冷蔵庫の上にあった皿に並べた。柔らかい指先がライチを摘む。初めにTがバスルームに消えた。

 いいのかな、私どうしよう。

 いいよ、3人でベッド使えば。一緒に寝よう。Tは先に寝るよ。

 変に思わないかしら。

 えっ、彼はたぶん…。

 Tは私がNとの関係を知っている。広尾のスナックで酒を飲み、「じゃあ、品川まで車で帰るから」とタクシーに2人で乗り込む。Tは 地下鉄直通の広尾駅に消える。「品川まで」のタクシーは天現寺前からUターンするように新宿に向かうのことが多かった。プリンスホテルか、男と女が快楽を 求める日本風の旅館を使った。しかし、Nを知っているのは私だけでなく、あるいはTもすでに関係を持っているのかも知れない。さっきのディスコでNのファ スナーは下ろされていた。Tの侵入がどの程度だったか判らないが、Tの指先の接触がNの花芯を潤したのは間違いない。

 Tがシャワールームから出てきた。タイミングよく冷えた瓶ビールが届く。Tがグラスにビールを満たし、そしてNがシャワーに消えた。深夜のテレビは海外のジャズカルテットがクリスマスらしい曲を奏でる。Nと入れ替わり、私がバスルームに入る。Nがさりげなく「これ使って」と言いながらバスタオルを渡してくれた。同じタオルを使うことで、Nは2人の関係を暗示したのだろう。石鹸の匂いにラベンダーの香り。勃起の予兆。

 ビールのグラスを合わせ、3人がピザに手を伸ばす。Nはライチの皮を剥く。白く滑る果実がNの核を思い起こさせる。タオルの下で勃起が始まった。

 シャンパンにすればよかったかな。

 そうだったクリスマスだし。

 そう言いながらNがライチを口に含む。本目のワインが開けられ、ピザはボール紙の残骸だけになった。皿の上には、無骨な褐色の皮に包まれているが、甘美な果実を潜めたライチが2つ。すでに剥かれた白い艶やかな果実がつ。グラスに残ったワインを空けるとTがテーブルを離れ、トイレからそのままベッドに潜り込んだ。Nが剥いたライチを摘んで丸めた唇に吸い込む。エロチックな仕草。唇にライチの滴が流れる。唇から飲み込まれる寸前に私の唇がNを捉え、やや硬質の果実を吸い取った。

 バスローブの中で乳首は固くなっているはずだ。シャワーで洗い流した秘やかな核の周りも潤い始めているだろう。

 先に寝ていいよ」。私 はベッドカバーを捲る。肌触りの良い、皺ひとつ無いシーツ。Nはバスローブを脱いで滑り込む。それほど豊かではないが、形のいい乳房。よく効いた暖房にNは毛布を掛けずに仰向けになった。左手を乳房の下に置いて目を瞑る。陰毛に覆われた潤いは斜めに切り取られるように毛布に覆われている。グラスの澱が鎮まるまで待って最後のワインをゆっくり流し込む。空けられた本のワインボトルには花屋で求めた紅い薔薇を一輪挿しにする。薔薇も朝まで繰り広げられる淫らな姿態に酔うだろう。Tは心地よさそうに眠ったようだ。クラクションが立て続けに鳴ったが、Nは寝息を乱さない。だが、Nは待っている。静かに息をしながら、潤いは2人の男を迎える準備を整えて。

 Nの横に並んだ。指先で唇をなぞるとNはゆっくりと目を開く。私は身体を密着させて静かにキスをする。Nの陰毛が太腿に絡む。Nは髪を包み込むように撫でられるのが好きだ。額にキスをして、首筋へ。耳朶を軽く噛む。掌が乳房に向かって滑り降りる。

クリスマスの夜に3

 上質なシーツは空気のように滑らかだ。心地好いコッ トンの肌触りで、Nの体温を吸い取る。花芯の熱さがNの背中を透明な汗で覆う。背骨の窪みに指を這わせると下肢が引き締まる。年齢を感じさせない、薄い茶色に彩られた乳輪が盛り上がり、Nの右手が私の勃起に向かう。脈打つ勃起の熱さは触れるまでもなくNには感じられたはずだ。乳首を噛むと口の端に吐息が洩れる。間歇的に洩れる息が燃えている。指先が花の芯を割るとシーツを滑らすほど粘度の高い欲情が溢れ出し、核は固い膨らみとなっていた。

 ああァ、ンぁ。その声にTの顔がこちらを向いた。Tさん、こっちに来て。Nは右手を勃起に添えたまま隣のベッドに左手を伸ばす。躊躇を見せないNの誘いにTがベッドを移動する。重みでベッドが軋んだ。私はNの固く濡れた芯を、的を外さずに攻め続ける。勃起といっていいほど大きく膨らむ核の中心を本の指で軽く挟み込む。剥き出された先端は赤く充血しているだろう。Tは戸惑いながらNの向こうに横になり、Nの乳首を唇を舌で愛撫し、口に含む。二人の男に挟まれNの割れ目の奥深くから、濃厚な愛欲が押し出されるように流れ出す。挿入された人差し指と薬指に絡む二枚の襞。親指は静かに、柔らかく突起を捉え続ける。淫蕩な穴の蠕動がリズムを早める。

 Nの熱い中心を人の指先が撫でる。私はNの脚を大きく広げて持ち上げた。花芯から突起した核、物欲しげな肛門までが淡い間接照明のベッドの上で露わになった。溢れ出した欲情が背中を流れる。小水が漏れたほどの量だ。真上を向いた肛門と燃えるような襞がヌルリと光る。開かれた襞妖し。柔らかく小さめの襞も押し広げられ、肛門は胡桃色に息づく。

 Nは自ら脚を抱え花芯を晒す。中心から脇腹へ、乳首から首筋へ。核から唇へ。男たちの唇、指先はNの膚から離れない。

 やがてNからの淫らな匂いが鼻腔を捉える。勃起は頂点に達していた。私はNの潤いすぎた導入口に先端を宛がう。熱い。熱い勃起がNの熱い穴の中に一気に吸い込まれる。ううッ。唇を噛んだNの口がTの勃起に塞がれる。うぐゥ」。Nが体を捩ると芯の角度が変わり、穴の奥深く挿入された亀頭を刺激する。私の目の前にあるTの背中にNの指先が食い込む。綺麗に切り揃えられた爪が力強く肉を掴みTがNに引き寄せられる。Tの腰の動きとともに激しくなる動物的な呻き。私は中心から勃起を引き抜き、Nの中心に顔を埋めた。Nの欲情が高まり、その匂いが獣のものになっている。舌先を丸め突起を責め、舐める。細い陰毛が鼻を擽る。

 人差し指が胡桃色の肛門を静かに撫で回す。張りのある襞は40歳を超えた女とは思えない初々しさだ。この肛門にすでに男の勃起が挿入され、その無理矢理に肛門性交をした感想を、挿入した男自身が翌日には電話で聞いてきたという。大手企業の社員である彼は、自らのモノを慰めながら電話しているという。携帯電話の無かった時代、午前9時過ぎに男はどこから電話をしたのだろう。電話を切ろうとするNに男は「もう、出ちゃう。ケツのアナにぶち込むよ」、そう喘いで果てた。

 N柔らかい、吸い込まれそうな穴。本来は排泄するための器官が、何故に人の興味をそそるのか。Nが肛門を晒し、私の舌を導く。舌先が肛門を綺麗に舐め尽くすと、人差し指が半ばまでスルリと挿入する。約1センチの前後運動が第2関節まで挿入されて繰り返される。舌が捉えた核の突起が震えNの下半身が痙攣した。

 押し花のように惜しげもなく広げられた淫唇と肛門が収縮する。イヤっ、と漏らすと同時に尿道からは温かい液体が滲み出た。私の口を経由した液体は肛門を伝わりシーツの染みを大きく広げる迸りに変わった

 Nの皮膚は、触感的には搗きたての餅とマシュマロを合わせたような手触りだ。掌の動きに敏感に反応し、しっかりとついてくる。柔らかくて、それでいて鞣し革の滑り感。俯せにして臀部を左右に思い切り開くと、その感じがよくわかる。臀部の中心で露わになる割れ目。肛門、淫芯、突起を覆う皮が剥ける。Nはそれだけで淫欲を滲ませる。その一点を凝視されることでNは驚くほど濡れた。

 Tが体を立てて勃起をNの中心に宛がう。私の熱い勃起をNの口腔に差し込むのと同時にTが一気に貫いた。あううっ、あぁ、あッううッ…。駄目よ、そんなにぃ。Nの顔が激しく前後に揺れる。張り詰めた勃起に歯が当たり痛い。激しい目合(まぐあい)の音だ。挿して抜く、押し込んで引き抜く。サバンナの動物がやっと辿り着いた水場で水を飲むような、ピチャピチャとした音。射精の瞬間、Nはいつものように呼吸を止めた。果てた2人の息遣いが荒い。私はNの放心した唇にキスをする。の動きも緩慢なNの眼も虚ろだ。Tベッドに横になり屹立した自身を天井に向けながら静かにNの乳房をまさぐり呼吸を落ち着かせる

 俯せにして尻を引き上げ、私はNの肛門に先端を宛がった。マシュマロの中に吸い込まれるようにすべてが挿入される。シャワーをした時にきれいに排泄したのか、Nは前回のように拒絶せずに受け入れた。ゆっくりと味わう。柔らかいが締まりのほどよい肛門。勃起を包み込み蠕動する、蠢く感覚。淫芯の中にはTに精液を思う存分に出させようと思いながら、私は果てた。精液の迸るたびに脈打つ勃起が直腸で快楽を貪る。私がゆっくり勃起を抜くと、小水でしめったシーツに開いたままの肛門から、たっぷりの精液が押し出されるように白濁して流れ垂れた。私は肛門から溢れてくる精液にNが剥いたライチを押し込めた。

 Nは肛門にライチを飲み込んだままシーツに体を預けるように眠り込んだ。Tはドア側のベッドに戻り、私たちはカーテンにネオンの瞬きの映る窓側で毛布を引き寄せる。Nの小さいが意外に質量のある乳房が静かに呼吸をしている。 

ベイルートから1

 

 長い間、貞淑な女として同時に奔放な女として生きていた40年。ベイルートから帰国して年目、何人の男と淫らな臭いの満ちた夜を共にし、昼に海岸のホテルで眩しい日射しを浴びながら体のすべてを晒して男と絡み合ったか。Nの肉体は性を奔放に受け入れてきた。それは過去の滅私的な貞淑への抗いでもあった。罪悪感や夫への裏切りという気持ちは芽生えなかった。あったとすれば娘たちへの微かな罪悪感。Nは家族を連れ立った夫の赴任地ベイルートでも自由に性を愉しん

 ベイルートへの赴任が決まり、Nはこれまで自分の中心を貫いた男たちと再び身体を合わせた。Nは男たちの屹立を舐り、自らの花芯大きく広げ、貪りあった。国立大学の学長選に挑んだ教授、一流商社の海外駐在や部長、大手企業の管理職、週間の大半をコントラクトブリッジで過ごす有閑夫人を相手にする、宮家にまで通じる名のある家柄の男たち。あるいは零細出版社の経営者、Nが気ままにパートで働く編集部のスタッフ。もちろん「パート」は鎌倉から東京に出るための定期代の代償だ。

 都内の二カ所に家作を持ち、鎌倉の自宅はヨーロッパから取り寄せたタイルを使ったエントランスやバスルーム。経済的にも精神的にも、そして肉体的にも不自由のない暮らし。有名女子大とその付属に通う二人の娘。年の半分近くを海外出張で家を空ける東大卒の夫は、唯一の趣味が丸善での和洋の書籍漁り。

 仕事以外にが何もない人よ。

 それでも30年近くは一緒に暮らしてる。

 そうね、暮らしている。一緒に家族として暮らしている、生活をしている、同じ家に棲んでいるというだけの関係なのよ。娘の誕生日は覚えていても私の誕生日は忘れてる。私が誕生日に夫のベッドに入ると体を硬くしてるのよ。キスをするとね、勃起してるの。感じているのか、それとも単なる生理的な反応なのか。でも、その先がないの。して欲しいとも、やりたいとも。

 山陰のある地方素封家として知られた家庭で育ったNは、高校から私立女子高に通い15歳で伯母の家に寄宿する生活を始めた。伯母の家は有力な地場企業を経営していた。当時を振り返ってNは、勉強もしなかったけど、遊びもしない、つまらない女の子だった」「ただ、階の窓から見える緑の連なりが季節ごとにとても綺麗だった。いつかあの山の向こうの街の人を好きな人と歩いてみたい」と、当時の思いを手繰り寄せた。

 それからNは結婚初夜の話を始めた。

 当時、山陰地方の高校生の性の知識がどれほどであったか知らない。つまらない女の子だったでしょうね。だって、結婚して人で暮らしていれば子供は自然にできると思ってた」Nに、結婚が決まる正月が明けてすぐの晴れた日だった。母が本をく差し出す。「本といっても絵を綴じたもの。きっと母も母からもらったんでしょうね。Nが奔放な時間を作るようになったのは下の娘が中学に入ってからだ。それぞれに女子系では一流といわれる一貫教育校に入って、Nはあり余る時間を自分のものにした。

 母からもらったというか、譲り受けたその絵を見た時に、恥ずかしいというより呆然としてしまったのかな。私のあの場所に、あんな大きな物が入るなんて想像もできなかった。怖かったのね。浮世絵が誇張してあるなんて、そんなことも知らなかったもの。

 もう、やることがなかったのよ、私には。

 私の編集部でも長い夏休み取ったNはアフリカ野生動物撮影ツアーに参加した。指導する写真家は動物写真では一流といわれた人だ。もちろんNとは面識もなかったが、Nは彼ともアフリカのテントで性を愉しんだ。Nにとって、それ自然なことなのだ。アフリカの動物たちとの出会い、未知との男たちとの出会い。欲求が重なれば身体も重ねる、自然な営みだ。

 テントの外で星を見ようって。空の星って、こんなにあるのかと思った。私の子供の頃にも山陰の山の中では、降るような星があったけど、アフリカの星は天辺からすぐそこの手の届きそうなところまで、溢れてるのよ。

 Nは日もシャワーをしていない体を写真家に荒々しく貫かれた。昼間シャッターを押していた指先が乳首を捉え、やがて汗ばんだTシャツを剥ぎ取り、陰毛を分け入る私の匂いを自分で感じて、それが恥ずかしかった。テントに吊るされたランタンが貫かれる悦びに揺れ、Nの乳首を照らした。写真家は「大丈夫かな」と呟いた。「コンドームも付けずに出しておいて、いつも男の人って同じことを言うわよね」とNは笑った。柔らかく充血し、やや弛緩した花芯から流れ出る白濁は、ゆっくりと肛門を絡めながら落ちていく。

ベイルートから2

 

 Nはベイルートの駐在員時代にピルを使い始めた。それは、ある出来事が契機になった。同じ駐在員仲間の夫人が肌の色の違う子供を出産、病院の重苦しい雰囲気とは裏腹に噂は文字通りベイルートの邦人社会を駆け巡った。現実を突きつけられた人の困惑を通り越して、インターネットのない時代、翌日には企業の駐在員のネットワークを通じて世界に広まった。

 Nは「M商事の駐在員の奥さま」として語ったが、私はN自身ではなかったのかと思ったりもしてみた。Nにそういうことがあっても不思議ではない。Nの左 の頬には目元から伸びる傷がある。あまり化粧をしない頬に2センチほどの、細いが、消しようのない傷になって残っている。

 運転していたのはNの夫が現地で採用した部下だった。車がカーブを曲がりきれずに道路から放り出されるように瓦礫に横転した。部下は当時のNより歳年下で30を超えたばかり、口髭が似合った。夫のロンドン出張の合間に、Nは子供たちを日系のベビーシッターの預けて泊旅行に出かけた。ベイルートから車で時 間。駐在員の夫人たちが夫の出張中に子供たちと羽根を伸ばしたり、あるいは仕事の多忙さを理由にベッドをともにすることに少ない夫への不満を、現地の若者 を相手に存分に晴らす。それで数週間は家庭の平和が維持される。夫たちも「日本流の接待」といいながら、現地の女たちとの密かな交わりを愉しんでいた。

 その日、Nも激しい夜を愉しんだ。男のそれは夫のものとは比べものにならない太さ、浮世絵の誇張を凌ぐほどだ。潤いは十分のはずだが、挿入の途中でNは 悲鳴を上げた。男は優しく引き抜くと唇に滑る物を押しつけた。大きすぎて口には入らない。生まれて初めてだった。あの痩せぎすな男の物が、怒張するとあん なに大きくなるなんて想像できなかった。Nはその時を思い出して喉が渇いたのか、そういってワインを口に含んだ。

 男の愛撫は優しかった。男もNの吸い付くような肌に興奮し、中心が痛くなる。長い愛撫の後、再びそれを挿し込む。ねじ込む。Nは不安と同時に、現地の女 の人はこの大きさを易々と受け入れるのだろうかと考えた。例えば、今日のベビーシッター、彼女も処女ではあるまい。そんな考えが過ぎった瞬間、Nの中が熱 い物で満たされた。それはヌミッという音とともに入ってきた。名状しがたい存在感がNの肉襞を押し広げている。長く、太い。それが動く。子宮口に当たる。 ペッサリーが外れないか、また現実的なことが頭に浮かぶ。

 夥しい量の精液が放出され、Nは大きく開いた足を男の腰に絡みつけ、尻を両手で抱え込んむ。脈打つ硬直する肉の棒をを受け止める。

 カーテンの隙間から朝日が差し込むベッドでNは回目を受け入れた。滑る陰茎を引き抜 くと、それは朝日に粘り着くように光った。Nはティシューで丁寧に滑りを拭い、男もNの割れ目に溢れるものを拭き取る。ベッドで裸のまま熱いコーヒーを飲 んだ。シャワーで流すにはもったいない高揚感を感じながら下着を着け、髪を纏めて口紅をさす。股間に痺れるような違和感を感じながらチェックアウトして助 手席に座ると、男はシフトレバーをDに入れながらNの唇を吸った。精液と混じり合ったN自身の匂いがした。

 病院に駆けつけた夫が驚いたのは、顔面を血 だらけにした妻の姿ではなく、隣の男が自分の部下であることだった。独身の部下を月に一度は自宅に招き食事もした。ワインを飲みながら快活に振る舞う。娘 から少しずつ日本語を学び片言を話す、頭の良さも好感した。瓦礫に横転した時間が朝だったことが幸いし、市内に出勤する車が公衆電話に車を飛ばして救急車 を呼んだ。運ばれた救急病院で人は処置室に並んで治療を受けていた。夫は、まるで夫婦のように、と思ったという。

 妻の頬は素人目にも深く割れていた。娘たちに、妻の隣でチューブに巻かれた男をどう説明すればいいのか。娘が夜の八時を過ぎて帰ってしまうと、救急処置 室の前には夫だけが残った。処置室で絡まり合うチューブが妻と男を絡ませているようで苛立つ。妻と男が夜をともに過ごしたことを想像すると落ち着かなかっ た。自分はいい駐在所長ではあっても、いい夫ではないだろうとの自覚はあった。そもそも愛撫は辞書の収録語ではあっても自らがするべきものではなかった。 この男の愛撫を妻がどう受け止め応えたのか。年に何度か、妻に勧められままにワインを空けてベッドに誘われることがあった。手順通りの交接。そこには精神 的な潤いも、肉体的な潤いもなかった。射精すら夫にとっては契約書のサインのような手続きだった。終わった後にはシーツの冷たさだけが残った。

 固いストレッチャーの上でNは瓦礫に横転する瞬間の浮遊感を思い出していた。男はハンドルから右手を離してNの膝に伸ばした。その手は太股から股間に迫 り上がってきた。想像できなかった屹立とは裏腹に男の指先は華奢で繊細だ。腿の内側の敏感な線を探るように中心を目指してくる。充血したままの花芯が反応 する。心地よい風がシャツを抜ける。昨日の夜のベッドの軋みが耳に蘇る。Nを抱きかかえて上にした時、根元まで挿入した物を一段と硬直させた。胃を突き上 げる迫力があった。Nは裂けたと思うくらいの痛みと同時に、圧倒的な存在感を味わった。それはそれ以前もそれ以降も感じたことのない制圧される喜び。救急 車で搬送される時、人の下半身に衣類や下着はなかった。Nは鮮明な意識で恥ずかしさを感じながら、陽を浴びながら揺れる男の股間に目をやった。そして、もう二度とあの逞しさを受け入れることはできないのだと。

 頬が熱い。口元には生温い固まりが貼り付いている。唇からは男の精が流れている。ぼんやりと足下をみると、露わになった下半身で陰毛が太陽を薄く反射し ていた。昨日の夜よりも、朝の屹立も超えた男のものをNはシフトレバーのように握っていた。車は対向車のない道路を真正面から陽を浴びて走り、男の指先が 執拗にNの固くなった突起を攻める。次第に高くなるうねりが背筋を伝わる。

 男の先端の緊張は頂点に達し、大量の精液が迸った。怒張から迸った精液がルームミラーを濡らす。ドクッと手の中で屹立が爆発した。度 目の迸りをNは口で受け止めた。優しい指先のリズムが思わぬ早さの射精になった。しっとり絡みつく指先に我慢ができなかった。射精を受け止めるNの滑らか な舌の動き。唇が先端の迸りを舐める。舌先で拭われる先端に男は目眩を感じた。頭の後ろが痺れた。瞬間、訪れた浮遊感にNと男は意識が薄れた。背骨を這い 上がる絶頂感。脳天が電撃が貫き視界が揺れる。

 白い太陽に晒された赤と白濁。乾いた血と精の匂い。救急車はくるのだろうか。白いシャツのボタンが弾けてオレンジ色のブラジャーは捩れている。自分では直しようもなく、乳首が出ているのが恥ずかしかった。小さめで色の薄い乳輪は人の娘がいるとは思えないくらいに若々しい。乳輪と乳房には男の歯型が小さく付いている。

 週間後に退院すると夫は事故についての追及を 一切しなかった。娘たちには会社の仕事を手伝ってもらった出先で事故があったと説明した。運転手である部下と妻が一緒の車で事故にあって不自然でない状況 を作って説明をした。夫は仕事を早く切り上げて無言の見舞いに来たし、娘たちも三回ほど顔を出した。Nはそのたびに大丈夫だから心配しないでと言い、娘が 見舞いに行った運転手の様子を聞いた。運転手さんもママはどうしてるって心配してた。また遊びに行ってもいいかなって、パパに聞いてみてってNの脳裏に男の太い男根が浮かび、花芯を濡らした。

 

 Nは学校のこともあり、娘と人で夫の任期が終わる前に日本に帰りたいと言った。その夜、夫はNを全裸にしてベッドに横たえた。初めてのことだ。明るい蛍光灯の下で手術台に仰向けになったように硬直した。頭の先から足の先まで舐めるように視線を這わせた夫は、左の乳房を咬んだ。乳輪を弄んで強く咬む。あうッと声が出た。だが、そのまま電気を消して夫は自室に消える。どうしたのだろうと思いながら、それでも敏感に感じていた。残されたNは花芯のわずかな潤いを指先に絡め敏感な突起を自身で探り、静かに慰めた。 

軽井沢で1

 

 

 軽井沢のK森にあるKホテルに10時過ぎに辿り着いた。予定を時間過ぎている。横川駅で雪のために臨時停車した。ホームには降り続く新しい雪がふんわり積もっていた。雪のせいか、それとも売り切れたのか、名物の釜飯を売る声は聞こえない。雪の横川駅を重い闇が覆う。臨時停車をして15分が過ぎた。Nが欠伸をした時、なんのアナウンスもなく列車はゴトンと動いた。少し動いて、また停まった。

 やっぱり宇宙から地球を見ると人間はヒトでいられなくなる。Nは地球に帰還して伝道師になった男の話を始めた。

 宇宙空間に浮かぶ地球を見てもヒトは神になれないと思うけど。

 神ではなくてもヒトではない何か。だって宇宙から自分が住んでいる地球を見ているのよ。自分の家族がそこに住んでるのよ。

 宇宙船に乗っているメンバーって、みんな科学者だよ。キリストは信じていても、いや、だからこそ、自分で神の領域を侵すことはないんじゃないのかな。

 だから、その、科学者である彼らがそう思うくらいなのよ。神のように曖昧さのない絶対的な存在。Nは宗教は信じていないが、神の存在には執着する。

 神は絶対か。仏さまに線香を上げて、困った時には神頼みしている日本人には理解しにくいかな。

 動いて、停まって。それでも遅れた列車が雪が降り続く峠を越える。やがて列車が軽井沢駅に着いた。駅舎前のロータリーも綿のような雪に埋もれていた。タクシーが凍えそうにワイパーを動かしていた。「いやー、こんな雪、久しぶりだもんね」。運転手がアクセルを踏み、右回りにロータリーを出る。ヘッドライトが雪道を照らす。今夜の雪は特別ですね。こんなに降ったの何年かぶりだものねもう一度、運転手は繰り返してミラーで後ろのシートを確認した。年は女の方が上かな、どういう関係なのか、こんな雪の夜に。運転手は、今日は東京はいい天気だったらしいですね。驚いたんじゃないですか。Nが相槌を打ちながら、国道沿いの酒屋に寄るように応える。ああ、あのお店ですか、よくご存じですね。軽井沢にはよくいらしているんですね。私はNの冷たい指先を握った。Nが軽く握り返す。コートの中の太腿が温かい。わずかに膝を緩める。

 Kホテルは名門Nホテル系のリゾートホテルだ。階建てのこぢんまりしたウッディーなホテルのエントランスはきれいに雪掻きがされていた。道路を挟んだテニスコートはケーキのクリームのような滑らかさで雪が広がる。

 ドアボーイが丁重にNを迎える。お待ちしておりました、いらっしゃいませ。私の持った荷物を受け取るとフロントに案内する。ホテルの南側の廊下はすべて ガラス張りで、淡い灯りが庭の白樺林をぼんやりと映し出す。灯りは水墨画のグラデーションで闇に溶け込む。部屋に荷物を下ろし、明朝の朝食はカフェテリア になります。ご用がありましたらフロントまでどうぞ。ボーイは頭を深々と下げた。柔らかな暖房が人を包む。コートを着たまま冷たい唇が重なる。鼻先から頬に暖かさがゆっくり広がった。ダブルベッドが置かれたフロアを段分ステップを降りるとソファとテーブルの置かれた10畳ほどのスペースがある。革張りのソファがL字型の配置され、壁際には暖炉が設えてある。暖炉の上にはガレを真似たランプがあった。ベージュの絨毯がシンプルで部屋を明るくしている。カーテンを開けると、雪はまだ降っていた。すぐ目の前に立つ白樺の幹に雪が絡みつく。

 Nはバッグからサラミと生ハム、チーズ、半分に折ったバケットを取り出してトレイに並べた。チーズナイフでサラミを切る。赤ワインは程よく冷えていた。ワイングラスは私が揃えて持ってきた。オリーブも欲しかったかないや、これだけで十分だよ。 私はオープナーでコルクを抜きながら答える。確かに、オリーブも良かったと思いながら。クリスタルのグラスに注がれた赤ワインで乾杯をした。しんしんと降 る雪に相応しい軽やかな音がした。Nの喉が鳴る。私はワインを口に含んでNの腰を引き寄せた。唇を合わせてワインを流し込む。シャワーをしよう。Nのウールのブラウスのボタンを外す。上から順番に、Nは下からボタンを外していく。ブラジャーが眩しいくらいに白い。Nはスカートのファスナーに手を掛けながら、ちょっとね、まずいかも知れない来たみたいなの薬で調整はしたんだけど。危なそうとは聞いていたが、実際に聞かされて脈拍が早くなった。冷静さを装ったものの、Nは私は大丈夫よ、まだ始まったばかりだし。貴方さえ気にならなければ」とキスをする

 Nを抱き寄せながらブラジャーのホックを外す。乳首が突起して固い。少し離れて指先で乳首を摘んでみる。まるでガブリエルの絵みたいだなと思った。今夜は凄く固くなってるよ生理の時はそうなるのよ、若い頃から。 乳房全体が張っている。白磁のような曲線と重荷を感じる皮膚の緊張感。乳房を持ち上げて乳首を唇で揉みほぐすと、Nは尻からスルリと逃げた。Nはスカート と一緒にペチコートを足下に落とす。白い下着の絹の滑りがステップを上がりバスルームに消えた。屋根に積もった雪が庇を滑り落ちる音がした。

 今日は灯りを消して。Nはそう言いながらバスタオルを腰の下に回す。バスルームの隙間からわずかに洩れる光にも肢体の白い滑らかな質感が浮かび上がる。舌の先を乳首に押し当てる。スッと硬くなった乳首と乳輪が苺のように粟立った。乳首を咬むと膝が小さく反応した。人差し指で左の乳首を摘む。凝ったように固くなる。太腿に密着した陰茎が静かに脈打つ。膝を抱えて引き寄せるとNは大きく股を開いた。中心部はわずかに漏れる光に陰っている。「時には娼婦のように、大きく足を広げて…」。尻の肉を開いて肛門を舐める。しっとりと濡れている。少し石鹸の匂いがした。舌先の唾液とともに肛門にデザートの苺 を押し込む。苺がゆっくり吸い込まれて消えながら、閉じた肛門から果汁が流れた。上質のマシュマロが苺を飲み込んだように柔らかく吸い込まれる。鼻先にあ る花芯は乾いて襞を広げている。舐めあげると感情のない襞が舌に引っかかる。小さな突起も隠れたままだ。両膝をさらに大きく開いて指先で花芯を開ききる。 剥き出しに晒されて赤く閉じた入り口を舌先が捉える。微かに血の味がした。下から上に向かった舌先が突起を強く吸う。小さな突起が大きくなるのに時間はか からなかった。人差し指が肛門に入り込み苺を奥に送り込む。

 潤いの満ちた花芯に先端が挿入される。直腸に収まった大粒の苺が亀頭の裏を刺激した。襞の柔らかさを愉しむように怒張が往復し、Nが繋がった軸を微妙な動きで応える。扱くよう圧着感が先端を包む込む。Nの頬が熱い。腰の下に手を回して角度を変えると、突起への刺激が強くなる。音にならない空気音でNの喉が鳴った。Nを引き起こし抱き寄せる。唇を吸い合い舌を絡ませる。挿入されたままの怒張の裏で苺が潰れた。ねえ、苺が出てきそう。Nは右手を回して肛門に当てて漏れ出した果汁を拭った。舐めるとやはり苺の味がした。いいよ、そのまま出しちゃって

 Nを上にすると挿入された怒張が最奥部まで到達した。先端のくすぐったい感触。Nも恥骨に突起を押しつけるように小さな円を描く。Nの緊張の後の緩和を味わいながら体を折って唇を寄せた。恍惚感に首筋が痺れた。あっあッ」の呻きとともに肛門から苺が押し出れる。苺の匂いがシーツの上に拡がり、同時にNの膣の最奥部に迸りが達した肛 門から苺の残滓が洩れた。繋がったままNを下にして引き抜くと、精液に赤いものが混じりながらNの弛緩した花芯から流れ出た。Nはベッドに敷いたバスタオ ルを巻き付けてバスルームに向かう。シャワーの音を聞きながらワインを飲んだ。テレビでは夕方からの大雪被害の様子を伝えていたが、明日は快晴の天候にな るとアナウンサー。バスローブを羽織って戻るNにグラスを差し出し、バスルームを使う。萎え始めた先からNの血が流れる。バスルームの隅に置かれたバスタ オルには意外に大きな赤い染みがあった。

 

 2人で適度なクッションの椅子に座り、ぼんやりとニュースを見ながら、室温に温まったワインを流し込んだ。また、雪の落ちる音がする。「軽井沢のこんな大雪は初めてだわ。明日は万平ホテルでランチして早めに東京に戻りましょう。私はお魚いただくわ」。

軽井沢で2

 

 

 Nは着物姿で帝国ホテルのロビーにいた。ヶ月ぶりのRはまだ現れない。本社で行われる四半期ごとの海外戦略会議にロンドンから東京に戻る。Rは会議に前日に東京に入りNと帝国ホテルで夜を過ごす。銀座で食事をして静かだが、熱く烈しい夜を迎える。Nはこの日には必ず和服にした。半襟はRの好きな薄い桜色。襦袢は思い切って緋色にした。部屋からは東京湾が見える。雲一つない陽を返して海はキラキラと綺麗だ。Rはエレベーターに入ると肩を抱きながらありがとうと言い、いつものように唇を合わせるだろう。

 彼だ。日比谷側のロビーからエレベーターの前を通ってRが歩いてくる。ダレスバッグは一昨年の誕生日に銀座のタニザワで選んでNが贈ったものだ。RとNの目が絡み合った。それだけでNの乳首が反応する。見つめた眼にはいつもと違うRの激しさがあった。Nをエレベーターに押し込むと性急な抱擁をした。階で扉が開いたが、激しい姿態に驚いたのか、人連れの女性たちは乗り込まなかった。Rは急ぎ足で部屋の前まで来てNの手から奪うようにキーを取りドアを開けた。部屋にNの残り香がする。Nはレースのカーテンだけ引いてきたが、Rはカーテンを開けて久しぶりの東京の光を部屋に満たした。昼間は鋭角に光を返していた東京湾が静かなオレンジ色に染まり始めていた。Rが荒々しくNをベッドに倒し込む。Nは少し驚いた。食事の相談して軽くワインを飲んで銀座に出る。今夜はしゃぶしゃぶと決めていた。ロンドンでは味わえない日本の牛肉をRは好んだ。向こうでも美味しい寿司を食べられるようになったからねと言いながら鍋を囲む。人で日本酒を愉しむ。松坂だけじゃないよね、美味しいのは。

 しかし、その日は違った。Rは裾から襦袢ごと着物を捲った。腰巻をもどかしげに引き取ると後ろから尻を持ち上げる。恥ずかしかった。エレベーターの中から潤いはあったが、一気に突かれて腰に小さな違和感があった。大きい。Rのそれはいつにもまして大きくなっている。遮二無二、突く。引き出されるたびにRの陰茎が窓からの斜めの光に当たる。ロビーでお帰りなさいと言っただけで、会話もなく突然に始まった性交。それでもNは悦びをベッドカバーとともに両の手で掴んだ。Rの痛々しげに激しい放出を受け止め。普段より少し濃くしたピンクのマニキュアが光った。明るいベッドの上で晒されていることは恥ずかしかったが、Nは仰向けになるとさらに大きく股を開いたRがNの少し赤く腫れたような襞の間から流れ出るものを拭ってくれた。

 「食事をしていても落ち着かなかったわ。どうしたの、と聞いたら、君の顔を見たら自制ができなかった、失礼なことしてしまったね」って、子供みたいに下を向いた。Nの胸に心臓がコトンと鳴った。いいのよ、私も同じ気持ちだったの。杯を戻しながらRを見ると、少し恥ずかしそうに肯いた。秋には年間のロンドン赴任を終えて日本に戻る。

 Nはそう話しながら眠りに就いた。外ではさらに降り積もった雪が枝々の雪を静かに落としていた。

 軽井沢には雪がよく似合う。夏の軽井沢は騒がしいだけの避暑地になってしまった。子供はまだ誰の足跡も付いていない雪の上を歩くのが好きよね。無垢、そんな言葉がぴったりNは続けた。「いつかそんな時代が私にもあったんだ。奇跡のように車の轍さえないクリームのような白い道。浅い足跡を残しながら手をつないで歩く。白樺が柔らかく光っている。ひっそり佇む木造の教会が樅の木の囲まれていた。脇道に自転車の新しい轍が一つ。ホテルで洒落た長靴を貸してくれた。お戻りになってから朝食にいたしますかお願いします、30分くらいで戻りますから

 部屋に戻ると溶けた雪片が小さな水滴になる。Nの唇が冷たい。鼻の先が少し赤くなっている。シャワーを使わせてじゃあ、一緒に入ろう。Nのシルエットは洋梨を思わせる。姿形が竹久夢二の描く女に似ている。少女のような撫で肩から背中に流れ、背中から尻に妖艶な膨らみを見せる。臍から下腹部を彩る陰りは陰裂が露わになるくらい薄い。磁器のような滑らかさの太腿は欲情的な花芯に結ばれている。

 熱いシャワーを浴びる。コックを左に全開すると肌に痛いほどの圧力が心地いい。Nの乳房がお湯を弾く。石鹸を滑らせる。乳房がプルンを揺れた。陰毛が程よく泡立ち、股間の泡が腿に流れる。Nが少し足を開いてタンポンを抜いた。タイルに落ちたタンポンの血が少し広がった。欲しい、入れて。 Nが勃起しかけた陰茎を扱く。バスタブに両手をつかせ尻を高く上げさせる。肛門に中指を入れると待ちわびるように収縮した。充血の中心に怒張したものが引 き込まれる。前後に運動する亀頭が幾重にも重なったような悦楽の襞を捉える。流したままの熱いシャワーがミストになってバスルームを満たす。Nの上体を起 こして乳房を鷲掴みにすると結合の角度が変わって刺激が高まった。

 

 放出の寸前に引き抜かれた 怒張は湯気を立てたまま物欲しげな肛門を貫いた。Nは、あゥあッと喉を鳴らして受け入れる。強く密着させて果てた。脈打ちながら直腸の奥に放出する。首の 裏からの痺れが脳天を突く。Nが膝を折ってバスタブに腰掛けると肛門から音を立てて精液が押し出された。あッ、ごめんなさい。尻に当てたNの手を取って立たせシャワーを当てる。右の腿に血が流れ、同時に勢いよく温かい放尿始まった。 

山陰・T市から1

 

 

 鯒の刺身を前に、猪口を口に運びながらNは当時を振り返った。「女の子同士で少し悪戯しただけで処女じゃなくなったのかな、って、そんな心配を真面目にする子だったのよね、当時の私は」。

 20年以上たってもNは山陰の山間T市で過ごしたの夏の日々を忘れることができない。Nは男と知る前に、女を知った。T市の女子校に通うNは、入学して1年はミッションスクールの寮に寄宿した。この寄宿舎は卒業までの3年間を寄宿することができるが、入学して1年間は寄宿が義務づけられている。3階建ての瀟洒な建物はいかにもミッション系の女子校らしい佇まいで人気があった。山陰地方の女子校としては進学校として知られ、この女子校の卒業生は良妻賢母の代名詞として語られることが多い。

  女子校の、それも寄宿舎では当時はエスと呼ばれるレズビアンが秘やかに引き継がれていた。多くは上級生が下級生を、新入生に目を付ける。入学式の日、礼拝 堂で新入生を出迎える2年生の多くは胸をときめかせて制服姿を見つめる。胸の大きさはヒップは、髪はショートカットがいいなど、それぞれに好みの姿を探 す。そんな上級生の視線など全く知らない新入生は式の直後から、どこからともなく熱い視線を感じるようになる。おやっ、と思って振り返ると上級生の視線が ある。階段の上から穏やかだが、粘着的な視線もあった。

  どこという目立つ容姿ではなかったNは、そういった上級生の視線とは無縁に過ごした。初めて親元を離れて不安だったNも、5月の連休の頃には親しい友人も できた。両親が京都で書店を経営するFとは図書館で初めて声を交わした。本が好きだった2人はよく図書館に通った。ある日、何気なくFの開いている本の表 紙を見ると「谷崎潤一郎」とあった。聞いたことにある名前だと思ったが、どんな内容の小説なのか見当も付かなかった。ただ、熱心にページを辿るFの眼はい つも潤っているように感じる。Nは図書館で太宰治を知った。後々に考えてみればミッション系の女子校に谷崎や太宰の書籍が充実していたのも不思議なこと だ。

  5月の連休にT市の叔母を訪ねなかったNは、夏休みには叔母の家で数日を過ごしてから実家に帰ろうと考えていた。せっかくだからFも誘おう。複雑な家庭の 事情の断片をNに語ったFは夏休みにも京都には帰らないという。「それなら、私の叔母さんのお家に行きましょうよ。泊まってくればいいわ、いいでしょ」。 NはT市で地場を代表する会社を経営する叔母の家に誘った。もともと、女子校に寄宿舎の抽選に外れて入寮できなければ、叔母の家の2階の1部屋を借りる約 束を両親はしていた。N自身、寄宿舎は2年生になったら退寮して叔母の家で世話になるつもりだった。Fは「貴女が良ければ、私は構わないわ。叔母さまによ ろしくお伝えして」と了解してくれた。叔母は「それは楽しみだわ。Nちゃんのお友達なら大歓迎よ」。ただ、夏休みの後半は叔父と、つまり夫婦で旅行に出 る。「それでも良いかしら」と叔母は達筆な葉書を寄こした。最初の2日は叔母が食事などの面倒を見てくれる。車で街も案内してくれるという。そして後の2日は自分たちで好きに使っていいと。

  立秋も過ぎた8月の半ば、叔母は車で寄宿舎まで迎えに着てくれた。もちろん、運転するのは叔父なのだが、都会風に洗練された叔母や叔父はNの秘かな自慢で もあった。Fは「お世話になります」と2人に頭を下げて後ろのシートにNと一緒に座った。8月も半ばを過ぎて山間を走る車には涼しげな風が流れ込む。1時 間かからずに車は叔母の家の前に停まった。長屋門のある大きな屋敷だ。歴史を感じるが、手入れが行き届いた建屋。庭も程よく手が入れられている。古い家だ が、窓枠は木造建築に違和感のない色の鉄製で幅の広いガラス引き戸がはめ込まれていた。1階の縁側には午後の日が柔らかく差し込み、開け放たれた障子の奥 の畳が気持ちよさそうだ。「貴方たちは階を使いなさい。この夏はクーラーを入れたから涼しく過ごせるわ」。たしかに、2階の南向きの窓が閉め切られてい る。車を降りて玄関に向かうと、脇の枝折り戸を開けて年配の女性が「お帰りなさいませ」と叔母の日傘を受け取った。「こちらは、家事を手伝っていただいて いるBさん。判らないことは何でも聞いてね」。  夕方、早めに風呂を使った。Nが先に使い、Fが入った。湯上がりに山を下りてくる風が涼しい。2人は寄宿舎できている普段着に着替えていた。気分はまるで 温泉宿のようだが、違うのは食卓が1枚板の大きなテーブルということだった。寄宿舎の質素な食事に慣れてきた2人には食べ切れないほど豪華な夕食の膳だっ た。叔母夫婦は2人から学校の様子などを聞きながらワインのグラスを傾けた。「Nちゃんたちもワインはどうだい」と奨めてくれる。奈良漬けでも耳が赤くな るNは遠慮したが、Fは「はい、頂きます」と快活に返事をして叔父を喜ばせた。「そう、赤ワインはキリストさんの血だもの。洗礼の時にはパンをワインに付 けて食べるんだろう」。Nは「え、そうなの」とFに唇だけを動かした。Fは首を傾げながらグラスのワインを飲む。何故かウンウンと肯きながらグラスを離さ ない。「あれ、初めてじゃないな、Fさんは」。叔父に答えてFは「ええ、実家では時々やってました」と白状した。仕事の忙しい両親とはほとんど一緒に食事 をしてこなかったFは、父親が「仕事の付き合い」で買い込んでくるワインを口にするようになった。せいぜい1杯、2杯のワインだったが、夢の世界に連れて 行ってくれた。増えていくワインの空き瓶に、父親は母親が、母親は父親が飲んでいるのだろうと思っているのか、Fは誰にも咎められずに中学生の頃からワイ ンの味を知った。同時に中学生の夏休み、そうちょうど1年前に知ったのが谷崎潤一郎。不思議な感じの小説だった。男と女はかくも激しく愛するものなのか、 憎み合うものなのか。一夜の男に身体を開く女。女に与し抱かれる男。そして女子高生の性愛。女子高生同士が肉体を交え、妊娠するという奇想天外な物語。

 

  増築したばかりという8畳ほどのダイニングは落ち着いた雰囲気で、控えめだが高級そうなシャンデリアが光を拡げている。「N子さん、少しだけ、どう」。F が自分のワイングラスをNの前に滑らせる。叔母がテーブルを離れると、叔父が「ものは試しだよ」と笑った。Fはワインのせいか、いっそう良くしゃべる。N もグラスに口を付けた。その時、グラスの縁の薄い口紅の跡に気付いた。Fは口紅をしているのか、そう思うと同級生のFが急に大人に思えた。Nは「私だって 子供じゃないのよ」と思いながらワインを流し込む。「おお、いけるいける」叔父が喜んだ。Fは「N子さん、少しだけよ」と、大人びた言い方をして、ワイン グラスを自分の前に引き寄せた。叔母が戻って「お茶にしようかしら、どう」。

山陰・T市から2

 

 「おやすみなさい」。10時 を過ぎてFと2階に上がった。「さっきクーラーを入れておいたわ」といいながら、叔母は「明日の食事は8時頃でいいかしら」と2階に上がる2人に声を掛け た。Nは冷蔵庫で冷えたサイダー、Fはプラッシーを持って2階に上がる。「叔母さんは綺麗な方よね」。Fは「叔父さんも面白い人でしょ」といいながら、N は叔父とはほとんど顔を合わせたことがなかったことに気付いた。叔母と親しかっただけに、叔父とも親近感を抱いていたが、考えてみれば実際にあったのは今 日で2回目だった。「お手伝いのBさんは通いなのかしらね」。「さあ、どうなのかしら」と答えながらNはプラッシーの栓を抜き、そのまま喉に流し込む。少 しだけ飲んだワインの残滓が少し消えた。「ちょっと酔ってしまったかな、私」。Fは布団に横になりながら「ふふっ」と笑い、「寝ましょうよ、いいかし ら」。Nは蛍光灯から下がった紐を引っ張る。カシャンと音がして部屋が暗くなった。「おやすみ」。Nの声にFの答えはなかった。それでもNは「明日は7時 には起きましょうね」と朧気なFの頬に語りかけた。糊のきいた浴衣が心地好い。

  「ねえ」。もう一度「ねえ」と聞こえた。目を開けると月の光が窓際のFの頬を照らしていた。寝ぼけ眼のNに、Fはもう一度「ねえ」といいながら、唇に指を 立てた。「だからワインを奨めたんだわ」。ワイン? ワインがどうしたの? どういうことなのかNには判らないまま、「えっ」と囁く。Fは「ねえねえ」と Nに躙り寄る。指で畳を指す。畳が…、畳? 「下よ」Fが指しているのは畳そのものではなく下の階のことだった。サッシ枠などで外気とは遮断されていても 上下の音がかなり漏れてくるようだ。下がどういう間取りになっているか、何回かの増築をしている家屋の間取りは良くわからなかった。小学生の頃には正月、 春休み、夏休みと遊びに来ていた。その度に両親とともに泊まったが、当時とはずいぶん間取りは違う。そもそもFと泊まっている2階の部屋も昔はなかった。 「ねえ、何か聞こえる」。そんなことよりNは眠たかった。でも、たしかに聞こえる。「あれって、ねえ」。FはNの布団を引き寄せる。「あれって、ねえ」。 Nは上半身を起こした。「何か聞こえる?」。Fはもう一度人差し指を唇に当てて、その指で下を指す。赤ちゃんが泣いている? お腹が痛くて苦しい?

叔母の声? どうしたの? 立ち上がって階下に行こうとするNの踝をFが掴んだ。「駄目よ、駄目」。

 「叔母さん」とはいっても父の妹だから、まだ30才 を少し過ぎたばかりだと思う。少し前まで小学校先生をしていた。東京の大学を卒業して帰郷した。親戚の誰もが東京で就職して結婚、そのまま都会の生活を満 喫するのだろうと思っていたが、叔母は卒業して数ヶ月、夏休みには故郷に帰ってきて、地元の小学校の先生になった。「教員試験はこっちで受けたんだ。だっ て、東京でなんか先生したくないもの」といって、地元の友人たちを喜ばせた。もっとも、叔母が東京をどうして東京を離れたのか、その事情を知るのは夫であ る叔父しかいない。都会的、というより東京的な服装は小学生の興味の的にもなった。教員数はたったの8名、生徒は2クラス65名、都心の小学校では考えられない人数だ。506ク ラスが都心の小学校では普通だった時代、T市では先生と生徒の係わりも濃かったのだ。そういえば叔母は教員を辞めて、何をしているのだろう。明日、朝食の 時にでも訊いてみよう、そう思いながら眠りに就いた。興奮もあったが、やはり疲れたのだろう。Fの「おやすみ」の声を聞くのと眠りに落ちるのがほとんど同 じだった。と、思う。

  駄目よ…。駄目って、駄目?。FがNの踝を掴み、半身を起こして腕を引く。Nの枕を引き、唇に人差し指を当てながらNを横たえる。Fの顔が目の前にあっ た。「ねえ、聞こえない?」。Nには階下から聞こえる喘ぎの意味がわからなかった。病気なの、どこかが痛いの。性の喘ぎ特有の内側に引き寄せられる呼吸。 夜の秘やかな悦びを取り込みながら悦楽、淫猥の喘ぎ。それまで聞いたこともなかった喘ぎにNは何の反応もできなかった。それがどういう理由で発せられるの かも、それまで知ることがなかった。カーテンを通して月明かりが明るい。FがNの頬に触れながら「叔母さん、とてもいい人ね。叔父さんも」。耳の脇から指 で髪を梳き上げる。といって、Nの髪は入学時に短く切ったばかりだ。襟足が制服のカラーにかかるかどうか、子供のようなヘアスタイルだった。髪を梳き上げ た指先が耳を辿って降りてくる。最後に耳朶を柔らかく包み込み、「Nちゃん」と囁いた。「あれって、フウフノイトナミよね」。「えっ。イトナミって」。N が息をひそめた時、Fの唇が近づいた。戸惑う間もなくFとNの唇が触れた。その瞬間、身体の中心を名状しがたい興奮が貫く。それは唇から首筋へ、そして両 の乳首へ、臍を通り抜けて下半身の中心へ。そして避雷針のように足下に抜ける甘美な興奮。官能的な唇だった。Nはそれをずっと後になって知った。Fがもう 一度、Nの唇を吸った。今度はNの脳天を何かが抜けた。目眩だろうか。耳朶の周りを辿っていた指先がNのパジャマの下に滑り込む。指先は的確に乳首を捉 え、さらに柔らかく進む。乳首が硬く立った。ジンジンと、不思議な感情が乳首から出て行く。乳首を硬くしたまま、指先は下着の下へ。その指は微かに震えて いたのをNは後になってFから聞いた。しかし、震えていたはずの指先は紛うことなくNの花芯に向かっていた。

 

  Nはイトナミの意味が理解できずに、頭の中で「営み」を思い浮かべた。フウフの営み。階下から漏れ聞こえたあの嗚咽は何を意味しているのか。よく判らない なりに、それが秘やかな声であることは理解できた。何故なら、N自身がFの指先に、同じような嗚咽を漏らしていたのだ。Fの指先は迷うことなくNの下着を すり抜けて柔らかな陰毛の生えそろった割れ目を辿る。不思議な感触が下半身を包む。違和感が肛門に伝わり、背中から首筋に這い上がる。違和感はあるが、拒 絶する違和感ではない。初めて体験することへの小さな震え。FがNの唇を再び捉えた。舌先が唇の裏を探る。

山陰・T市から3

 

 

 FがN の下着が器用に丸めていく。お気に入りの薄いピンクの下着が膝をするりと抜けた。Nは浴衣の裾を掻き合わせ、脱がされた下着を探ったが、Fの手の中で小さ く畳まれ枕元に置かれた。Fは半身を起こして浴衣を肩から外す。はらり、とFの乳房が表われた。山の月明かりが乳房の影を映す。日本人形のような皮膚感。 滑らかな感触に危うさの隠れた乳房の稜線。思わずNは自らの乳房と比べていた。同級生なのに、一気に3才も4才も大人になったようなFの姿。Fは浴衣を脱 いでNと並んで横になる。Nは帯を解かれ浴衣が開く。すでに下着を着けていないNの全身が表われて、F自身も全てを晒す。Nの胸をFの右手が静かに包む。 まだ15才の胸を暖かいFの掌が覆う。Nは乳首が硬くなるのが恥ずかしかった。何故、胸の先が凝ってしまうのだろう。初めての痛痒い感触。Fの舌先がNの乳首をゆっくりと舐る。濡れた乳首がFの吐息を感じた。

  Fの陰毛は豊かだった。その翳りがNの太腿を摩る。しっかりとした抱擁。Fの腕がNをかき抱く。FはしっかりとNを抱き、唇を激しく求めた。Nは「これが 接吻か」と思いながらFの抱擁に応えた。Fが身体をくるりと入れ替えた。NはFがしてくれたようにFの乳首を吸った。舌先が乳首を捉えるとFの喉が鳴っ た。階下から聞こえた声だ。「イトナミ」の声、聞かれてはいけない声。階下から突然「あっ、あぅぅ、ああっ」と声がした。最後に「あんん」と息絶えたよう な叔母の息遣い。それを合図のようにFの指先がNの花芯に躊躇なく侵入する。そこは熱くなって濡れていた。あの部分から何かが漏れてしまったようで、Nは 腿をきつく合わせた。締め付けられて、中心からはさらに熱い粘液が押し出された。「大丈夫よ、Nちゃん。みんなそうなるのよ。私だって、ほら」と、Nの右 手を自身の下半身に導く。たしかにFのそこは粘液的なもので溢れていた。指を少し動かすと小さな突起に触れた。周辺の柔らかい襞に比べると割れ目の中で少 し硬くなった豆粒のようなもの。指先を回すとFが「ううッ」と息を呑んだ。もう一度。背中が反り返る。「Nちゃん、やさしくね」。Fは「して欲しいの、同 じこと」と、Nの陰裂に指先が滑り込む。Nは思わず自分で口を押さえる。それでも指の間から嗚咽が洩れる。Fの指先がNの中心に滑り込む。人差し指と中 指、2本の指先が潜り込む。Fの指の第一関節が緩やかな円を描いて穴を捉える。「ここ、私以外に触らせてはいけないわ。ね、Nちゃん」。

 Nは痺れる後頭部を枕に預けた。火照るNの身体にFが浴衣を着せてくれた。帯を締めながら唇を合わせた。Fの乳首が揺れた。「ヒミツにしようね」。Nは頷きながらFの右手を握った。フウフノイトナミは終わったのか、浴室を使う音がする。

 Nちゃん、叔母さんたち、フウフノイトナミを私たちに聞かせたんだよね、きっと。

 えっ、そんなこと…。

 だって、まだ、寝るような時間ではなかったわよ。

 子供は早く寝るって…。

 子供って、高校生よ、私たち。

 だって、叔母さんがそんなこと。

 大人のイトナミにはいろいろなシュミのカタチがあるのよ。

 私たちは指先を絡めながら寝入ったが、階下の風呂の音は続いていた。

 

  「おはよう」「おはようございます」。NとFが声を揃える。「よく眠れたかしら」と叔母が応える。晴れやかな艶のある顔をしていた。「叔父さまは」とFが 聞くと「、「今日は朝早くからゴルフですって。お付き合いでね」。食卓のテーブルにはトーストとミルク、苺のジャムが並んでいた。フルーツの名前がわから ないが、瑞々しく美しいオレンジ色をしていた。レースのカーテン越しでも朝日が眩しい。「お昼過ぎには帰って来るから、車で街に出ましょう」。「楽しみだ わ」というFの唇が、昨日までとは違って見えた。NにとってFの唇は「女のもの」に見えた。そして、Nも少しだけ大人になったような気がした。昨日の夜 は、叔母の割れ目も私と同じような蜜のような液体で濡れたのだろうか。でも、叔母は男と2人で寝ていて、どうして子供ができないのだろう、そんなことを考 えながらトーストを食べてミルクを飲んだ。心配があった。Fの指先が自分の中心に入ってきた。私は、処女ではなくなってしまったのか。でも、噂で聞いたよ うな痛みはなく、むしろ心臓の下からジワジワと迫り上がる気持ち良さが残った。

山陰・T市から4



 

 朝食の後、叔母と3人で昼から出かけるT市の街の話題になった。「美味しいアイスクリームを食べさせるお店があるのよ。みんなで行きましょ」。私とFは 水着を買うことに決めた。叔母の家の前には流れの緩やかな川が流れている。「きっと気持ちいいよね」と2人で笑った。叔母も「私も行ってみるわ。出掛ける 時には声を掛けてね」。街から帰って、夕食前に3人で川に行くことになった。その時、叔父の車が戻ってきた。クラクションの音にお手伝いのBさんが駆け 寄って荷物を受け取る。「どうしようか、用意ができているならこのまま出てもいいし」。私たちは声を揃えて「はい、準備は万端よ」と車に乗り込んだ。

 叔母お奨めのアイスクリームは美味しかった。高校の寄宿舎でも時々、夕食の後にアイスクリームは出されるが、上品な苺ジャムが添えられてアイスクリーム は都会の味がした。叔父と叔母は、2人が百貨店で水着を選んでいる間に、会社の得意先の暑中の挨拶回りをするという。Nにとっては冷房の効いた百貨店の華 やかさが楽しかったが、水着売り場でFと揉めた。Fはフリルのない体育の授業できるような水着がいいという。Nは裸をそのまま見られるようで嫌だった。短 いにしても少しでも腰の周りをフリルが覆っていた方がいい。「だって、海水浴場じゃなくって、あの川で遊ぶのよ。誰も見てはいないわよ」。Fが続ける。 「それに、Nちゃんの身体はすごく素敵だもの。絶対にこっちにするべきだわ」。Nはすっかり妹扱いだ。Fは黄色と緑、Nは青と赤の縞柄を選んだ。斜めに 入ったストライプが腰の部分で切り返しになったデザインだった。店員は「さすがにいいご趣味をしてますわ。これは今年発表されたばかりのフランスのデザイ ンです。とてもお似合いです」といいながら、「ありがとうございました」と頭を下げた。水着を買うと、早く戻って泳ぎたくなった。

 2階の部屋に上がってすぐに着替えた。着てみると、百貨店の売り場で見たより格好がよかったが、思った以上に身体の線が出ている。Nは窓を開けたまま服 を脱いだ。不思議なことに抵抗なく裸になれた。明るい光の中でFの肢体が輝いている。ピッタリと肌に張り付いた水着のラインが、同性が見ても美しかった。 普段、学校で制服を着ている時、寄宿舎で寛いでいる時とは全く違うFがいる。「Nちゃん、とても似合う」。Nも嬉しかったが、胸も股も窮屈だった。Fも股 繰りを引っ張っている。2人の目が笑っていた。立ったまま抱き合って軽く唇を合わせる。Fが背中を優しく撫でてくれた。「さあ、行きましょう。叔母さまに 声を掛けてね」。叔母は長めのレースのカーデガンを羽織り、2人分のバスタオルを渡してくれた。「飲み物はBさんが後で届けてくれるわ」。

 川の周りは2メートル以上も蔓を伸ばした青々とした草が連なり、樹齢を重ねた木々、その上には真っ青な空に、夏も終わりに近い雲が浮かぶ。3人でそろり と川に足を入れる。冷たさが心地好い。3人のいる少し上流には大きな岩で作られた堰があって、流れは腰までしかない。時々、近所の子供たちが遊びに来ると いう。「でも、もう夕方のこの時間には来ないわよ」といいながら、叔母は平泳ぎで向こう岸へ。10メートルはないが、緩やかな流れに身を任せるようにゆっ たりとした泳ぎだった。急に昨夜のフウフノイトナミが思い出されてNは赤面した。Nは河原に戻りながら、水着が小さくてはみ出しそうなFのお尻を見詰め た。対岸で腰に手を当ててFを見ている叔母の胸やお尻は大人の女としての質感があった。腰は程よく括れていて、白い肌に黒のシックな水着が似合った。大き な一枚岩の上に3枚のタオルが並んでいる。Nは右端のタオルに腰を下ろすと後ろからBさんの声がした。「Nさん、大丈夫? 少し冷たかったかな」。「い え、とても気持ちよくて」。Bさんが持ってきた桶には氷とサイダーやオレンジジュースが入っていた。「叔母さ~ん、サイダー頂いていいかしら」。Nは泳ぎ ながらこちらに戻る叔母に声を掛ける。叔母は泳ぎながら手を振り、「Fさんもどうぞ」と流れの中に立ち上がる。叔母とFは少し上流の堰まで鮮やかな抜き手 で泳いだ。初めはFが勝って、次は叔母、3回目はほとんど同時に堰にタッチした。「ねえ、Nちゃん、どっちが早かった」。Fが堰の下で振り向いた。「う~ ん、叔母さまかな。でも、ほんの少しだよ」。「わぁ、負けちゃった」。Fは川の半ばで叔母の背中に飛びついた。大人の女が絡み合っているようで不思議だっ た。大人であって少女のような叔母の笑顔。少女であって大人のようなFの振る舞い。

 2人は泳ぎ疲れて河原に上がる。3人で一枚岩のタオルに並んで座った。真ん中に座ったFは長い髪をポニーテールにしている。叔母の髪は大きな髪留めで器 用に巻き上げられている。襟足が濡れていて傾きかけた夕陽に光る。Fは濡れたポニーテールを右肩に回して指先で絞っていた。Fは卵ほどの大きさの桶の氷を 掴み、頬ばる。「ほら、冷たくて美味しいわ」。Nに氷を手渡す。Fはもう1つ氷を取ると水着の胸の間に滑り込ませた。真似してみると気持ちが良かった。氷 はパッドの入っていない胸の間で止まり、身体を冷やした。氷はすぐに溶けていく。冷たい液体が水着に染みながら臍に向かう。叔母は「あらあら、子供みたい な真似しないのよ」と笑って、髪を解いた。蝉の声が低い位置から聞こえる。「明日から留守にするけど、判らないことはBさんに聞いてちょうだい。お食事も 用意してくれるから」。それぞれ身体にタオルを巻いて河原から道路を渡る。通りかかった三輪トラックを運転する若者が驚いたようにブレーキを踏んだ。叔母 が「…さん、気を付けて運転するのよ」。若い運転手は「はい、後でワインお届けします」と右手を挙げて敬礼の真似をする。叔母は走り去る三輪トラックに小 学生のように大きく手を振った。

 

 何という素材なのか、今まで着てした木綿の水着とは違い、薄くて肌に張り付く。タオルで軽く拭き取ると、乾くのも早い。店員は「アメリカで開発されたナ イロンを加工したものなんです」と自慢げだった。最近はストッキングもナイロン製がある。透明感がこれまでとは違った。もちろん、高校生のストッキングは 木綿のものだが、今日、叔母が付けていたのはミッションスクールの生活とは無縁のナイロンの上等なものだった。水着を脱ぐとひんやりした。蜩の声が何故か 哀しげだ。Fは大きく伸びをすると髪をまとめてアップにする。叔母とは違う大人の姿があった。涼しくなった風が部屋を通り抜ける。Fの陰毛が風にそよぐ。 「Nちゃん、少し陽に灼けたね」。Nはすぐに日焼けする。たしかに、半袖のシャツの先はわずかだが赤くなっていた。夕食の時間も迫っていたので、風呂は使 わずそのまま服を着た。ブラジャーは付けなかった。乳首がシャツに当たって妙な感じがしたが、それはそれで体験したことにない爽快感でもあった。 

山陰・T市から5

 

 

 ビーフステーキはBさんがかつて東京のレストランでコックをしていた旦那さんの直伝だった。胡椒が大人の味を醸し出していた。ワインも赤を頂く。そう よ、もう私は大人よ。Nは一人で頷く。ワインのせいで日焼けした二の腕から先が火照る。叔父が「どうだった、今日の川遊び」。「叔母さまの水着、とても素 敵でした。大人になったら、ああいう水着着てみたいな」とF。「なに、もう立派な大人じゃないか、Fちゃんは」。「あら、私は?」。Nの声がきつかったの か、叔父は少し驚いてNに顔を向けた。「う~ん、Nちゃんは大人になりつつある少女かな。脱皮している真っ最中か」。給仕しながらBさんがくすりと笑い、 つられてみんなが笑う。Nが思わずFを睨む。Fは悪戯っぽく口を押さえた。「Bさん、今日はお風呂はいいわ、もう寝る」。

 Nちゃん、ちょっと待ってよ。私も上がる。

 いいわよ、Fちゃんはどうぞごゆっくり。

 な~に、その言い方って。もう。

 どうせ私は子供ですよ。ねえ叔父さま。どうぞ皆さんで大人のお話でもなさって下さい。

 Nはいつもなら「叔父さん」という。でも、「叔父さま」と呼んで一人の大人の女を意識した。昨日の夜に叔母と叔父は、大人のフウフノイトナミをしてい た。数日前までそんなことを全く意識していなかったが、そう、叔父も叔母も「優しい親戚の叔父さん叔母さん」ではなく、大人の男と女だった。さっき、河原 で見た叔母の内股に着いた小さな痣。泳ぎ終わってFの肩の手を置いた叔母の指先。

 Nちゃん、子供でいいじゃないか。なにも背伸びして大人になることはないよ。だって、Fちゃんは5月生まれ、Nちゃんは3月だ。同級生といってもほとんど1年も違うんだ。お姉さんと思っていればいいよ。甘えていれば。

 そんなに気を遣ってもらうほど、子供じゃないわ。ねえ、Fちゃん。私たち大人よね。

 Fはまるで子供をあやすようにNを正面から見詰めた。Bさんが「どちらも立派なお嬢さまですよ。明日はどうなさいます。お2人でどちらかに出られますか」。

 明日はここで過ごします。川に行って、少し山の中にも歩いてみようかな。いいでしょ、Fちゃん。

 そうしましょう。なら、今夜はもう少しいいわよね。

 Fはワイングラスを滑らせた。「ほどほどにね、Fちゃん」。Nはワインを注ぐ叔父を見ると、同時に叔母の視線が叔父とFを往復しているのが判った。

 「今日は疲れたね」。2階に上がってすぐに蒲団に横になった。Fは川の匂いがした。「水の匂いだ」。「Nちゃんだって、ほら」。Fが優しく乳首を吸って くれた。「Fちゃんはお姉さまだものね。妹の私を可愛がってね」。そう言いながらNは眠りに就いた。夢の中にFの肩に置かれた叔母の指先と内股の小さな痣 が、何度も繰り返し出てきた。その度にFの髪が頬を撫でた。

 水着を替えて川に行った。Bさんが「素敵な水着」と送り出してくれた。「Nちゃん、泳ごうよ。大丈夫、私がいるからね」。FはNの手を取って堰まで連れ て行った。「ほら、気持ちがいいでしょ」。流れのない堰から落ちる水は温い。やっと足が着く深さだが、Fがいる安心感があった。水の抵抗を受けながら身体 が合わさる。Fの乳首が固い。抱き合いながら流される。肩を組みながら仰向けになった。青い空が流れる。三輪車トラックが河原の上の道路を通り抜けた。 「きれいだね。何もない空。今日は雲もない」。川の中、水を含んだ口づけ。それだけでNは下半身が潤った。「Fちゃん、上がろうか」。一枚岩の上にタオル を重ねて敷いた。Fは水着を肩から外して裸になった。Fも少し日焼けしている。丸い乳房が濡れている。Nの水着を肩から外し、そのまま剥いでいく。抵抗な く、ナイロンの水着が踝から抜けた。青を全裸が反射する。Fも裸になって俯せになって目を閉じる。脊椎の窪みが美しいラインを描いていた。

 門扉からは見えないが、玄関に近づくと物置の脇に三輪トラックが停まっていた。毎日のように配達に来ているのだから不思議ではなかったが、いつもなら裏 の勝手口にトラックを回す。物置の脇にはBさんが控え室のように使っている部屋がある。台所に近いので便利な四畳半ほどの部屋だ。でも、普段なら三輪ト ラックはエンジンを掛けたまま荷物を下ろす。酒だっり味噌に醤油、米、乾物、頼まれれば何でも届けてくれた。配達する御用聞きの若者はBさんの息子くらい の年令なのだろう、暑い時に配達に来れば当時はめずらしかった氷の入ったカルピスを振る舞った。四畳半のわずかに開けられたガラス戸から間欠的な忍び泣き が聞こえるのを2人は逃さなかった。それはイトナミの声だった。2人は顔を見合わせ静かにガラス戸に近づいた。忍び足がおかしかったが、心臓は高鳴ってい た。聞こえる。「あ」か「う」か「え」なのか、たしかにやや鼻にかかったBさんの声だ。四畳半には蒲団が敷かれている以外、何もなかった。Bさんは大きく 足を上げ、自分の腕で抱えている。若者が下半身を股の中心に打ち付ける。その度にBさんと若者は汗を飛ばした。膝裏を抱える両の手に力が入り、白い顎が仰 け反る。陽に灼けた若者の背中からも汗が流れ、何回か若者の往復運動が続くと、同時に「うっうッ」と2人の声が詰まった。若者が足を持ち上げたままのBさ んの上に激しく重なる。2人の息遣いが荒く、汗で光る背中にBさんの手が回った。そのままのカタチで落ち着くと、若者がくっついたままのBさんの中心から 離れた。照らりと光る滑りが抜かれ、絡みついた粘液が糸を引いた。開かれたままのBさんの股の間、黒い翳りから白い液体がゆっくりと流れ出た。2人は蒲団 に仰向けに並んだ。若者がBさんの股間を丁寧に拭いている。そして、Bさんが若者の萎縮したものをちり紙で拭い、最後に口で覆った。Bさんはもう50才を 過ぎているはずだが、肌は白く、うっすらとした肉の厚さが好ましかった。Fの掌は汗で濡れていた。Nは喉が渇いていた。2人は静かにガラス窓を離れ、大き く息を継いだ。

 

 「あれはセックスね。夫以外の男とするのはセックスよ」。Fがそういいながら「いやらしいわ、あんなの」と昂ぶりを押さえてNの手を握る。Nは別のこと を考えていた。フウフノイトナミは子供を作るためではなかったのか。でも、Bさんは夫以外の男とイトナミをしていた。叔母たちがフウフノイトナミをしてい たのは「まだ子供がいないからだ」と思っていたNにとって、Bさんと若者のイトナミをどう理解したらいいのか。それも、何もかもが見えてしまう昼間のこん な時間に。イトナミとセックスは、Fのいうような違いなのか。FはNの左手を握りながら、何か怖いものを見るような、遠い焦点はどこにも合っていない。

山陰・T市から6

 

 

 「Nちゃん、河原に行こう」。Fは一度も屋敷を振り向かず道路を横切り河原に降りた。大きな一枚岩は光を吸って熱かった。Nは自分の両親もイトナミをし ているのか、想像すると胸が苦しくなり、苦いものが喉元に込み上げた。FはNが隣に座っているのを忘れたかのように川の流れを見詰めている。込み上げた苦 い液体が口元から溢れる。小さく咳をしながらNは川の水を掬い取って口を漱ぐ。「大丈夫?」。Fの声には力がなかった。「ねえ、おいでよ。冷たくて気持ち いい」。「Fちゃん、いい気持ちだよ」。口を漱いだNが川に誘う。腰が抜けたように座り込んでいたFがゆっくりと立ち上がり、スカートを太腿まで捲って川 に足を浸した。雲のない青空が眩しいが2人の周りは仄暗い冷気が包んでいる。まるで入水自殺をするかのようにFが川の中に進んだ。そしていきなり「Nちゃ ん、泳ぐわよ」と着ているワンピースを肩から脱いだ。それを河原のNにフワリと投げる。パンツ姿になったFが上流の堰まで一気に泳いだ。今日は抜き手では なく鮮やかなクロールだ。Nは水の流れに乗るのがやっとなのに、Fは何でもできる。川の真ん中で立ち上がると濡れた乳房が見えてしまうが、Fは気にしな い。たしかに、道路からは見えないが、対岸の山の木々の間からは丸見えだ。「Nちゃん、泳ごうよ」。Nがスカートのまま川に入ると「ほら、気持ちがいい よ」とFに腕を引っ張られた。白いブラウスが水に浸かって乳首が薄く透ける。「Nちゃんも脱いでしまいなさいよ」。Fは仰向けになって大の字のままゆっく りと流される。くねくねと波のままの形で中州まで流れ着く。「Nちゃん、おいでよ」。Fの気持ちは理解できた。自分ではどうしようもない難題を棚上げする ために、泳ぐ。「おいでよ」と言いながらFは中州から堰までまた泳ぎ始めた。20メートル以上の距離をあっという間に泳ぎ切る。一枚岩までやってくると、 Fの乳首から朝露のような水滴が零れた。

 Fは自分の着ていたワンピースをNに着せてくれた。代わりにFは濡れたNのブラウスを着ながら「わっ、冷たい」と笑った。Fは下はパンツ姿のまま、走っ て道路を横切った。三輪トラックは消えている。1階の食堂は冷房が効いていた。Bさんと顔を合わせるのが怖かったが、Bさんはいつもと変わらない笑顔で 「お食事は7時頃でよろしいかしら」。このBさんが、あの声を出し、若者のモノを口に含んでいた。「お願いします」と答えてNは2階に上がる。Fは「洗濯 機をお借りしていいかしら」とさっきまで着ていたワンピースを丸めた。「洗いますから、洗濯機の脇の盥に入れておいて」。「いいんです。洗濯くらい自分で します」。どこか冷たい物言いにBさんは戸惑いながら「使い方は判るかしら」。寄宿舎ではみんなが共用の洗濯機を使う。いつの間にかFと一緒に洗濯機を使 うようになった。いつもFが「Nさん、洗濯するわよ」と声を掛けてくれた。溜めておいた洗濯物を一緒に洗う。Fのブラジャーやパンツには小さな刺繍が付い ていて可愛かった。Fは自分で刺繍するのだと、少し自慢げに「ほら、可愛いでしょ」。皇室の方々はお印として着衣などに花の刺繍をするらしい。自分でも やってみようかな、そんなことを思いながら2階に上がるFの足音を聞いていた。叔母たちのいない夕食はワインもなく、会話も弾まずに静かだった。夕食は肉 ではなくて魚料理で、川の魚は塩が効いた焼き魚、刺身は砕いた氷の上に大根の妻と一緒に並んでいた。ご飯も味噌汁も美味しかったが、Bさんが若者のそれを 口に咥えた姿が頭を過ぎる。

 「明日はどうされますか」。「明日は、自分たちでやりますから、夕食だけ用意して下されば」。夕方に来てくれればいいと告げると、「そういうわけに は…」。「いいのよ、叔母さんにもその予定だと伝えてあるの」とFは言い、「夕食は鰻がいいな。あるかな、うなぎ」。Bさんは川で獲れる鰻を用意するわと 胸をポンと叩く。 「それに、白ワインがあると嬉しいな」とFが甘える。冷蔵庫に冷えているという。「でも、大丈夫かしら」とBさんは心配したが、「平気 よ、叔父さまならきっと奨めてくれるわ」とFは1人で頷く。2人で蒲団を敷くとすぐに風呂に降りた。「一緒に入っちゃいますから」と脱衣所に向かうと「あ らあら、仲の良いことね。若い子は何でも興味津々よね」。Fの長い髪を洗ってあげた。Nは自分の短い髪を洗う。「私も短くしようかな」。「駄目よ、Fちゃ んは長い髪が素敵だもの」。檜でできた2畳ほどもある湯船は2人で浸かってもゆったりだった。「いいなあ、寮のお風呂とは大違い」。2人で互い違いに頭を 風呂の縁に乗せる。浮力で身体が浮かぶのが面白い。やっぱりFの翳りはNよりも濃い。その間からFの陰裂が見える。Fのそこにも若者の持っていた大きくて 長いものが入るのだろうか。Fだけでなく、私自身にも。Bさんが戸締まりをして「おやすみなさい」と屋敷を出た。何故か三輪トラックのエンジンの音が聞こ えた。その夜、口数も少なく唇を合わせると、FとNはお互いの背中の熱さを感じながら横になった。お互いに寝入っていないことは判ったが、枕を通して聞こ える心臓の音が大きかった。朝が明けても食欲はなかった。何となく蒲団の上で、山からの風が通り過ぎるのを感じていた。涼しいが身体は熱い。さっきFと口 づけをした。その前には裸になって抱き合った。乳首を吸われると気持ちがよかったし、Fの指先がNの女の部分に入り込むと、痺れるような浮揚感が背骨を伝 わった。Fも気持ちがいいと言った。

 でも、今夜のFは手も握ってこない。たぶん、Nが手の伸べれば拒まないだろうとは思うし、そっと握り返してくれると思う。Fの方に寝返って、薄く目を開 けるとFは枕にきちんを頭を乗せて目を瞑っていた。浴衣の襟元を合わせてNも上を向いて目を瞑る。Bさんの白い肌が浮かんだ。Bさんの帰りがけに三輪ト ラックが来ていた。あの若者が迎えに来たのだろう。わざわざ店の三輪トラックで迎えに来たのだから、また、どこかで昼間と同じことをしているはずだ。明日 は夕方まで屋敷には来なくていい。夫以外の男と、夜も朝も昼間も、イトナミではなくセックスをしている。そう考えるとNの頭の中は混乱した。子供ができた ら…、と現実的なことを巡らせる。若者の、ぬらりとしたものがN自身の中に入ってくることを考えると怖かった。物知り顔のFもショックを受けたのかも知れ ない。谷崎を読んでフウフノイトナミを知っていても、実際にイトナミ、いやセックスを目の当たりにしたことはないだろう。

 

 微睡みかけた時、屋根に雨の音がした。窓を閉めないと、そう思った時にはFが窓を閉めていた。ということは、雨は少し前から降っていて、Nが気付かな かっただけなのか。クーラーのスイッチが入る。冷たい風が吹き出し口から降りてくる。濡れていた浴衣の襟が冷やされて首筋から身体の熱気が逃げていく。や がて雨が強くなり遠くに雷が聞こえた。小学生の頃、家の裏庭の木に雷が落ちた。雷光と同時にドカンと地響きがして木から火が出たという。翌朝、黒く焦げた 木が無残だった。また雷だ。だんだん近づいている。雨音も大きくなった。広い屋敷に2人しかいないのは少し怖かった。「Fちゃん、怖い」。Fは顔の向きを 変えながら「まだ眠ってなかったの」と、手を握ってくれた。「大丈夫よ、雷もすぐに止むわ」。「怖かったら、こっちに来なさい。一緒に寝てあげるから」。 「うん、少し怖い」。Fが「大丈夫よ」と言いながら髪を撫で、肩を包むように抱いてくれた。「昼間のこと、怖かった」。NはFの胸に呟いた。Fはいっそう 強く肩を抱きながら囁く。「見なかったのよ、何も。何もなかったの。Nちゃん、判るわね」。涙がFの胸元を濡らした。 

東京・新宿1

 

 

 Nが家庭的な問題、とりわけ娘二人に対してどのように自らの立場と行動を説明していたのかは知らない。N自身も話さなかったし、私も聞かなかった。それ は私に対しても同じだった。二人には、二人で共有する時間と場所だけが問題だった。銀座か、新橋か、赤坂、新宿。よく食べて飲んだ。娘の誕生日に初めて シャンパンを用意した日、鎌倉からハンドルを握りながら「ママのブラ貸してもらうわね」といわれた日を思い出していた。あの日、下の娘はレースのバランス のいい黒いお気に入りのブラをしてどこに行ったのか。Nが初めて自分でブラジャーを買ったのは高校2年生の時だった。白やベージュ以外のブラジャーを買っ たのは娘たちが自分の手を離れた10年少し前、銀座の洒落た店だったような気がする。レーシーでエレガントなブラジャーを、帰ってすぐに着けてみたのを思 い出す。乳首が柔らかく包まれた。このブラのホックを最初に外すのは誰だろうと考えながら、指先がホックを探す。

 新宿・歌舞伎町の賑わいから花園神社を抜けていくとホテル三千院があった。写真家Aがよく使ったことでも知られたホテルだ。エレベーターの中も畳敷きの 和風のホテル。玄関から庭にかけて趣のある風に竹が揺れる。仲居が心付けを襟元に挟み込んで襖を閉めるのももどかしく抱き合った。背中のボタンを外しブラ ウスを取る。ブラジャーを押し上げて乳首を吸った。左の乳房を鷲掴み、右の乳首を強く吸い、囓る。スカートの上から恥骨を責める。スカートのホックを外し ファスナーを下ろす。下着はシンプルな黒だ。白いブラウスにグレーのスカート、下着は黒いシルク。乳首が固い。Nが私の頭を抱えながら畳に崩れる。薄い灯 りにNの肌がきれいだ。外界の微妙な光に反応する皮膚の中からの潮騒のような官能。指先が肌を撫でると光が柔らかく反応する。その度にNの花芯は潤いを増 す。

 して。Nの直截な言葉が怒張を促す。風呂の湯が満たされる音を聞きながら性急にショーツを脱がせると、花芯からの潤いが長い透明な糸を引いた。全てを剥 ぎ取られたNが欲情の畳に横たわる。早く。Nは胸を隠しながら「早く」と唇を動かした。私はゆっくりネクタイを解く。Nが膝を擦り合わせる。透明な潤いが 肛門を伝わって畳に流れた。怒張は何の抵抗もなく吸い込まれるようにNに収まる。柔らかい襞が亀頭を擽り、あッという間に射精した。引き抜いた洞から、白 い精子が生々しく流れ出る。お風呂にしましょ。Nが白い液体を腿に垂らしたままベッドを降りる。広尾ではNもかなり飲んだ。黒々と閉まった祥雲禅寺の門前 でNが唇を求めた。唇は熱かったが。鼻の先の冷たさがNの酔いを感じさせた。Nは酔うと淫乱さが増し、床を濡らすほどの潤いがある。

 障子ガラスの浴室は檜の香りに満ちていた。お乳も垂れてしまって。Nはそういいながら湯に浸かる。乳首がゆっくり湯に沈む。薄い胡桃色の乳首を吸うと、 檜の香りが鼻をくすぐる。湯船で向かい合った私はNを抱えた。湯船に入る前にシャワーで下半身を洗ったが、湯の中でもはっきりと淫液で膨らむ陰唇を指先が 捉えた。Nの滑りが怒張の先端に触れた。粘液を絡め取るようなキスが繰り返され、亀頭が花芯に滑り込む。冷蔵庫にワインはあるかしら。Nの眼が遠くを見て いた。

 緋色の上掛けを捲ると白い綸子の敷布が広がっていた。しっとりとした厚みを持った綸子の上で、柔らかい抱擁。赤ワインが二人の唇を潤す。でね、海が見え るのよ、ガラス張りのお風呂から。烏帽子岩の向こうに夕陽が沈んでね。裸になって、全部見せてくれって。もう能力的に駄目だから、見るだけでいいって。彼 は夕陽の中で黒いシルエットになってたわ。熱いくらいのバスルームなのに、彼は乾いた指先で私の額から顎、首筋、肩って、辿っていくのよ。ここを触る時に は指先は震えていた。Nは自分の人差し指を乳首に当てる。私も向かい合ったNに同じことをした。それから。Nがワインを含んで続けた。

 開いて。彼は下から覗き込んで唾を飲んだわ。私はバスタブに腰を下ろして見せてあげた。意外なほどの力で膝を大きく割って指先でそこを開いた。彼の股間 で、彼が30年以上も研究していた鰻のようなものが揺れていた。私は、悔しいけど、濡れていた。指先で襞を開くの。何だかね、先生だけあって解剖学的な指 先なのね。やっぱり、あんな時でも研究者なのかと、不思議だった。指が入ってきて。指を三本も入れてきたのよ。指が腿から膝、足首から足に辿り着くと、あ りがとう、って。私のそこにキスしたのよ。それだけ。して欲しいともいわないし。触ったら、柔らかくて、何だか変だった。私は女の子だけだったら判らない けど、子供のような感じなのに、色はちょっと感じが悪かったわ。

 お蒲団で寝るなんて何年ぶりかしら。やっぱり気持ちがいいわね。Nが大きく伸びをする。白い綸子の枕を抱いて笑う。腫れたように広がった花芯が淡く光 る。亀頭の先に先走りが糸を引いた。来て。Nの突起が充血している。脈打つ怒張が吸い込まれるようにNの奥深くまで差し込まれた。熱を帯びた蠕動する甘美 な襞が包み込む。急速な快感に耳朶を咬んで放出した。

 

 強張ったまま引き抜くと同時にNの充血した花芯から精液が流れ出す。タオルを尻に宛がって零れ出る液体を丁寧に拭き取った。ジワリと陰裂に滲み出るよう な液体。生命の素であるはずの液体が部屋に溢れる淫蕩な空気に晒される。悦びのためだけに放出される液体と、それを拒絶するNのピル。ペッサリーのように 物理的に精子の侵入を防ぐのではなく、基本的な生理である排卵を抑制するピルに抵抗はあったが、30代も後半になってペッサリーの交換装着に婦人科に通う のが苦痛になった。ピルケースは夫の目の届く寝室のサイドテーブルに置いてあったが、それに言及することはなかった。自分と交渉すらない妻がどういう理由 でピルを飲んでいるのか。それとも夫はピルケースの錠剤を風邪薬とでも思っているのか。  ツインベッドの向こうで夫が毛布を引き上げた。息遣いで夫がこちらを向いているのはわかる。下着は着けないでベッドの入った。前開きのホックが外された ネグリジェから肩を抜く。毛布が素肌を包む。柔らかな起毛が乳首を撫でた。恥骨を覆う陰毛は剃毛されていた。Nの指先が乳首を揉む。静かに、ゆっくり。右 手は陰毛の気配がない恥骨の中心部から湿り気を帯びた部分に向かう。風呂上がりに飲んだブランデーの水割りが身体の中心を熱くしている。この頃はすぐに達 してしまう。色付いた真珠のようだといわれた敏感な突起を指先で剥き出す。人差し指で触るとすでに固く勃起したような突起が感応する。足の先まで達した快 感が指の動きに合わせて反転して頭頂へ。指先がさらに進むと過剰なほどの液体が花芯から陰裂に溢れている。再び、突起を弄ぶ。乳首が反応する。情景を思い 出してNは毛布を咬んだ。ああっうッ。隣を見ると夫の目が薄く開けられていたようだった。妻が自らの指先で悦楽を求めているのを見て夫は勃起しているのだ ろうか。自ら陰茎を扱くことはあるのだろうか。 

東京・新宿2

 

 男は開ききったNの股間の隅々まで、肛門の周辺まで完璧に剃毛した。触ってごらん。男はNの指先を陰裂に沿わせた。溢れた潤いが抵抗のない股間を滑る。カメラのストロボが続けて光った。

 エアコンを止めると部屋には冷たい空気が降りてきた。湿った肌にはやや冷たすぎるが、Nの膀胱を緊張させるには適度な室温だ。部屋の設えに合わせて衣紋 掛けに緋色の襦袢が掛けてある。障子に反射する仄かな灯りにも鮮やかだ。手首に跡が残らないようにさえすればNは緊縛を拒まなかった。蒲団に立たせて緋色 の襦袢を着せる。浴衣の帯で前を合わせる。全裸にしての緊縛よりも、襦袢の肉体を縛った方が刺激がある。縛り方は無手勝流で自在だ。亀甲縛りなどには拘泥 しない。縛る目的は縛る過程でお互いに、それぞれの想像力で性的な興奮を高めることだ。冷たい空気に曝された皮膚が再び赤みを帯びてくる。剥き出しにされ た花芯を中心に性の匂いが漂い始める。エアコンが停まって空気の流れがなくなった蒲団の上に性の匂いが澱む。

 後ろ手に縛り、両の膝に帯を通して首の後ろに回している。全く無防備になった下半身が柔らかく光る。剃り跡に滲み出る細かい汗だ。目隠しはしていない が、Nは目を瞑って視界を塞ぐ。口には自らの絹の下着が押し込められ、鼻息が徐々に荒くなる。胸が大きく上下する。左の乳首を摘む。爪を立てると、首筋と 腹筋に力が入った。塞がれた口からくぐもった声が洩れた。右の乳首も爪で挟む。「あうッ」と声が出た。用意してきた竹の洗濯挟みを乳首に留める。バネは少 し緩めているが、乳首には相当に痛いはずだ。Nが腰を捩った。肩にも力が入り、歯を食いしばると口に入れた絹の下着がギッと鳴った。簡単な縛り方だが、最 も単純な形で辱められる体位が好きだ。縛る紐や帯も二本あればいい。縛ったままのNを抱き起こし襦袢の肩を外す。仰向けのNを裏返すと奇妙な形で背中が現 れ、背骨が美しいラインを描く。唇を背中に這わせる。首の下から尾てい骨まで丁寧に舌で撫でる。腰骨の脇に歯を立てて咬む。白い肌に歯型が赤い円形を作 る。新しい帯を腿に通して背中に回して膝を大きく開く。透明な液体が溢れている。欲情の湯気で濡れているような滑り方だ。

 洗濯挟みを取って乳房に歯形を付けた。Nは喉の奥で「い、い、いたいッ」と嗚咽した。目尻に涙が流れる。週末にでもTに聞かれるだろう。誰が付けたん だ、と。指先で陰裂を割り、いきなり挿入する。Nもそれを持っている。接合した部分だけの性行為。結ばれ接しているのは性器だけだ。息遣いと性器の擦れ合 う粘着的な音だけしか聞こえない。やがて溢れ出るNの粘液は濃度を増し白濁していく。淫蕩な音が聞こえ、放出の高まりを誘う。Nの下腹部を押すと小水が漏 れた。放尿を堪えると膣が締まる。そして、怒張の先端が破裂すると同時に、熱い尿が噴き上がった。尖った乳首を舐る。折り重なった私の下腹部をNの迸りが 濡らし、蒲団に染みを拡げていく。腿に貼り付いた、濡れた緋色の襦袢が震えた。



(完)